“地域を育てる”伝統芸能『顯國神社の三面獅子』の可能性。

“地域を育てる”伝統芸能『顯國神社の三面獅子』の可能性。

皆さんは『顯國(けんこく)神社の三面獅子』をご存じだろうか。町のお祭りで披露される伝統芸能「三面獅子」の裏側に迫ることで見えてきた《文化を伝承する理由》とそこに力を注ぐ町の若者にスポットを当ててみた。

こんにちは、編集部のあいりです。幼い頃からお祭りが大好きで、町の和太鼓教室に通っていた私の楽しみは神輿の太鼓を鳴らすことでした。そんな私が今回テーマに選んだのは「三面獅子」

三面獅子って子ども達を脅かして、いい子にさせるものじゃないの?とお思いの貴方。実はオニとワニって一見コワモテだけど、とってもご利益のある神の使いなんです。

ここで、そもそも「三面獅子」って何なんだ?という方に向けて簡単に解説しましょう。

ちなみに、鼻の高い方がオニ

そして、牙がある方がワニ

最後にこちらが獅子。赤い獅子頭が一般的ですが、顯國神社の獅子頭は真っ黒なんです。これがまた怖いんだ。

木を削り出して作られた獅子は総量約23キロもあるというから驚きです。担がせてもらうと、かなり重い…。この獅子頭を担いで舞うとは、相当体力がいるんだろうなぁ。

「三面獅子」の気になるギモン

三面獅子にまつわるギモンを解決するべく訪れたのは顯國神社。宮司である長尾 常民(ながお つねひと)さんが三面獅子について教えてくれました。

三面獅子の獅子は不作や病気、災害を表しているんですか?

そうですね。三面獅子舞はオニとワニが獅子を退治するお話なんですが、「獅子を退治する」ことは「厄払いすること」を表しています。

そうなんですね。お祭りで子どもが獅子舞に頭を噛んでもらう光景をよく見かけますが、この風習にはどんな意味があるんですか?

獅子に頭を嚙んでもらうと病気にかからず、頭も良くなるという言い伝えがあるんです。子どもの健康を願う親の思いから生まれた風習だと思います。

なるほど。オニやワニが持つ鉾(ほこ)に付いた鈴を頭上で振り鳴らしてもらう光景もよく見かけるんですが…。

あの風習は「鈴を頂く」と言って、「御神徳(ごしんとく=神様のご利益)を与える」という意味があるんですよ。

そんな大切な意味が込められていたんですね。勉強になりました。

さて、気になるギモンが解消したところで…「三面獅子」の行く末を担う現在の踊り手にスポットを当てたくなった私は、「顯國神社三面保存会」に取材を申し込みました。

※三面保存会…獅子舞の芸能を保存・伝承することを目的に昭和53年(1978)に発足した。

こちら、三面保存会 現役メンバーの皆さん。なんと、想像していたよりも若者が揃っていますね。

今回は三面保存会 会長の北山 心人(きたやま しんと)さんと副会長の深野 天浩(ふかの たかひろ)さんのお二人にお話しを伺いました。

なぜ伝統芸能に興味を持った?

お二人はいつから三面保存会の活動をされているんですか?

僕たちは高校一年生の頃から三面保存会の踊り手として活動しています。活動を始めて今年で9年目になりますね。

三面獅子に興味を持ったきっかけは?

幼い頃、父親世代の大人たちが三面獅子を舞う姿を見て「かっこいいなぁ、あんな大人になりたい。」と感じたのがきっかけです。今もその頃憧れた三面獅子の格好良さは超えられずにいるんですよね。

なるほど。普段はどんな練習をしているんですか?

毎年夏と秋のお祭りで三面獅子を披露するんですが、大体祭り開催日の一か月前から隔日で練習を始めます。二週間前からはほぼ毎日3時間程度みっちり練習を行いますね。練習内容は個々のパートをそれぞれ練習したり、全体の流れを練習したりと日によって変わります。

練習内容は皆さんが考えているんですか?

はい。指導者がいないので、自分たちで踊り方を研究しながら練習を行っています。観に来てくれる人の期待を超えたい一心で常に試行錯誤する毎日です。

皆さん年齢が違うと、衝突することもあるんじゃないですか?

そりゃ、もちろんありますよ。でも皆「踊りを良くしたい」という気持ちは同じなので、互いに受け入れながら切磋琢磨しています。

地域を想う若き踊り手の使命

そうなんですね。三面獅子保存会の活動で大変だったことはありますか?

僕たちの代から三面獅子保存会の活動を一新して体制を整えたので、地域との関係づくりや三面獅子の文化継承という面で難しい部分が沢山ありました。

地域との関係づくりとは具体的にどんなことですか?

本来お祭りの日に各家庭や商店を練り歩いて踊りを披露することでお布施をいただき、三面保存会を運営していくんですが。だんだんと三面獅子を観る文化が衰退していく中で、受け入れてくれる家庭や商店が減少しているんです。どうやって地元の人に「また観たい」「お店へ来てほしい」と思ってもらえるかを常に考えながら活動しています。

なるほど。難しい課題も沢山ありそうですが、皆さんがこの活動を続けている理由は何ですか?

もちろん、シンプルに三面獅子が好きだからです。もし理由を挙げるとすれば「昔から変わることなく受け継がれてきた踊り」と「コミュニティ」を次の世代に繋げていきたいからですかね。

皆さんにとって三面獅子を通して出来たコミュニティはとても大切なんですね。

そうですね。家族みたいな存在ですからね。大人になるとなかなか集まる機会や場所って少なくなるじゃないですか。僕たちのコミュニティは、そんな大人が町の中で集まれる居場所なんですよ。伝統を学びながら個々が成長できる場所でもあります。

そうなんですね。ますます皆さんの三面獅子を観たくなってきました!まだ顯國神社の三面獅子を観たことがない方に向けてメッセージはありますか?

僕たちが踊る三面獅子は決して派手な踊りではないけれど、シンプルが故に誤魔化せない難しさがあるんです。この町に古くから伝わってきた本来の踊りを今に伝えながら、常に進化し続ける踊りを地元の方はもちろん、遠方から来ていただく方にも観てほしいですね。きっと感動していただけるはずです。

皆さんの想いを知ることができて、こちらも胸が熱くなりました。本日は貴重なお時間をいただき、ありがとうございました。

最後に

私が取材した三面保存会は町の中でコミュニティを作り、若者の愛郷心を育てる大切な役割を担っていました。

湯浅町に立ち寄る機会があれば、ぜひ湯浅のお祭りに足を運んで「三面獅子」をご覧ください。祭り当日までとてつもない練習量を重ね、たった20分に想いを込めて舞う様子は、想像以上の迫力です。

※三面獅子が披露されるイベント情報
若宮祭(夏祭り)
  毎年7月18日の若宮祭本宮(ほんみや)とその前日の宵宮
例祭(秋祭り)
  毎年10月18日後の最初の日曜日の例祭本宮
(令和3年は新型コロナウイルス感染症の影響により自粛)