海の恵みがつむぐ町 湯浅
和歌山県の中部西岸に位置する港町、湯浅町。
町に面した紀伊水道は瀬戸内海と太平洋の狭間にあたり、波穏やかな深い入り江に沿った海岸線は、時間帯でさまざまな美しい表情を見せてくれます。隣接する広川町にまたがる広い湾には広川が流れ込み、天然の良港として漁業が栄えただけでなく、その地形や立地の良さから古来より回船の寄港地や物流の拠点としても発展しました。
町の南北を熊野三山へと続く巡礼の道 熊野古道が貫く「古道歩きの宿場」としての側面からも、水陸交通の要衝として栄えた町と言えるでしょう。
湯浅と言えば、最もよく知られているのが「醤油醸造発祥の町」の印象ではないでしょうか。
今や和食の味の原点として世界に知られる醤油。その発祥が湯浅町です。
石積みの護岸でできた「しょうゆ堀」と呼ばれる内港、大仙堀には醤油蔵が建ち並び、今なお歴史情緒あふれる風情を湛えています。醤油醸造発祥の地としてのストーリーは「最初の一滴」として平成29年(2017)に日本遺産にも認定されました。
醤油醸造のルーツは、鎌倉時代の僧が中国での修行を終え、帰国した際に製法を持ち帰った金山寺味噌にあると言われています。金山寺味噌製造の過程で仕込み桶に溜まる液汁の味わいに気づいた湯浅の人々が、調味料として改良を重ねた末に醤油が生まれ、やがて町の中心産業となりました。
この醤油とその文化が広まったのも、海からの物流が栄えたからこそ。湯浅で生まれた醤油は海を渡り、今では日本各地、さらには世界各地の食卓にまで広がりを見せています。
また、湯浅が誇るのは醤油や金山寺味噌に留まらず、アジやサバ、しらすといった豊富な海の幸もその1つ。質の高い漁網や漁法を携えた湯浅の漁業は、江戸時代には紀州一と称えられていたほどです。
中でも県下トップの水揚量を誇るしらすは1年を通して水揚げされ、釜揚げしらす、生しらすなど、新鮮なしらすを用いた丼を提供する店は町のあちこちに見られます。しらすはなんと言っても鮮度が命。新鮮な食材が手に入る港町だからこそ味わえるしらす丼は、愛すべきご当地グルメとして親しまれています。
また漁業分野では広川で行われる伝統のシロウオ漁も見逃せません。「四つ手網」と呼ばれる約2m四方の特殊な網を川底に沈めて遡上するシロウオを狙うこの漁は、早春の恒例として毎年行われ、春の訪れを告げる風物詩となっています。
さらに内陸部では柑橘を中心とした農業も産業の柱を担っています。中でも温暖な気候に恵まれたこの地では「有田みかん」に代表される柑橘類の生産が盛ん。田村地区で育つ田村みかん、古くは江戸時代幻の果実を言われ紀州徳川家の藩主に献上した栖原地区の三宝柑など、湯浅を代表する柑橘も多く生まれています。
おいしいみかんの味を作る条件の1つに「海からの潮風」があります。気候を温暖に保つ作用だけでなく、ミネラルを含んだ潮風が豊かな土壌を育み、深い味わいの元となるからです。湯浅の山で育つ柑橘は、海からの風と太陽の光をたっぷりと受けて、味をぎゅっと凝縮させているのです。
海産物だけでなく、潮風が育む柑橘の味わい、そして醤油の伝来やその輸送に至るまで、海はさまざまな形で町の発展に関わってきました。
さまざまな時代を経て、今も海の恵みが息づく湯浅町。その恵みから生まれたあれこれを体感しながら、ぜひあなただけの特別な時間をお過ごしください。